日本の伝統的な家屋から、現代のモダンな住宅まで、幅広いシーンで活躍する「引き戸」。省スペースで開閉できるその利便性は、多くの人に愛されています。しかし、その防犯性を考える時、どのような「鍵」が付いているのか、その種類や特徴を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。引き戸の鍵は、開き戸の鍵とは異なる、独自の構造と種類を持っています。引き戸の鍵は、施錠の仕組みによって、大きく二つのタイプに分類できます。一つは、「戸先錠(とさきじょう)」と呼ばれるものです。これは、引き戸の先端、つまり戸を閉めた時に柱や壁に当たる部分(戸先框)に取り付けられる錠前です。鍵を回すと、錠前から「鎌(かま)」と呼ばれる、フック状や四角い形状のデッドボルトが飛び出し、柱側に取り付けられた受け座(ストライク)にガッチリと引っかかります。この「引っかかる」という動作により、戸を横にスライドさせようとしても開かなくなり、高い防犯性を発揮します。玄関や勝手口など、防犯性が求められる場所の引き戸には、この戸先錠が一般的に使われます。もう一つのタイプが、「召し合わせ錠(めしあわせじょう)」です。これは、二枚の引き戸が中央で合わさる(召し合う)部分に取り付けられる錠前です。室内側のつまみ(サムターン)や、室外側の鍵を操作すると、一方の戸からスライド式のロックピンやフックが伸び、もう一方の戸の受け金具に差し込まれることで、二枚の戸を固定します。これにより、二枚の戸を左右に開けられなくする仕組みです。主に、縁側や部屋の間仕切りなど、二枚建ての引き戸で広く採用されています。これらの基本的な種類に加えて、さらに補助的な役割を持つ鍵もあります。例えば、窓のクレセント錠に似た「ねじり錠」や、シンプルな「差し込み栓錠」など、簡易的なロックも内鍵として使われることがあります。このように、引き戸の鍵は、設置される場所と、求められる機能によって、様々な種類が存在します。自宅の引き戸には、どのタイプの鍵が付いているのか。それを知ることが、住まいの防犯を考える上での、大切な第一歩となるのです。