バイク乗りを絶望の淵に突き落とす「メットインへの鍵閉じ込め」。通称「インロック」や「インキー」とも呼ばれるこのトラブルは、なぜ、これほどまでに頻繁に起こってしまうのでしょうか。その背景には、メットインという収納スペースが持つ構造的な特性と、私たちの日常の、ほんの些細な習慣が深く関わっています。メットインへの鍵閉じ込めが起こる、最も典型的なシナリオを考えてみましょう。まず、ライダーはバイクを停め、エンジンを切ります。そして、キーホルダーに家の鍵なども付いているため、メインキーをイグニッションから抜きます。次に、ヘルメットや荷物をメットインに収納しようと、シートを開けます。この時、手には、先ほど抜いたばかりのバイクの鍵と、ヘルメットや荷物を持っています。そして、荷物をメットインに入れ、両手がふさがっている状態で、何気なく、あるいはうっかり、鍵も一緒にメットインの中に置いてしまうのです。あるいは、一時的に置いたことを忘れてしまうのです。そして、次の瞬間、無意識のうちに、あるいは「バタン」という音と共に、シートを閉じてしまう。この、シートが閉じるという動作が、そのまま「施錠」という行為に直結していること。これこそが、メットインの鍵閉じ込めが多発する、最大のメカニズムです。車のトランクとは違い、メットインの多くは、シートを閉じるだけで、自動的にロックがかかる構造になっています。施錠するために、改めて鍵を使ってロックするという工程がないため、「鍵を中に置いたまま、施錠してしまった」という認識が生まれにくいのです。また、メットインは、その利便性の高さから、非常に使用頻度が高いスペースです。乗降のたびに、ヘルメットを出し入れする。その日常的な、繰り返しの動作の中で、ほんの一瞬の気の緩みや、注意散漫が生まれやすくなります。例えば、誰かと話しながら、スマートフォンを操作しながら、といった「ながら作業」をしている時に、このトラブルは特に起こりやすいと言えるでしょう。便利であることの裏返しに潜む、構造的な落とし穴。それが、メットインの鍵閉じ込めの正体なのです。