鍵穴に差し込んだ鍵を回した瞬間、「ポキッ」という、乾いた、そして絶望的な音。鍵の持ち手部分だけが手元に残り、その先は、固く閉ざされた鍵穴の奥へと消えてしまう。この「鍵折れ」というトラブルは、鍵に関する問題の中でも、最も深刻で、そして厄ASSYっかいな事態の一つです。パニックに陥り、何とかして自分で取り出そうと躍起になってしまう気持ちは分かりますが、その行動が、状況をさらに悪化させる可能性があります。鍵が折れてしまった瞬間に、絶対にやってはいけないNG行動がいくつかあります。まず、最も多くの人が試みてしまいがちなのが、「鍵穴に、接着剤をつけた棒などを入れて、くっつけて取ろうとする」行為です。これは、最悪の選択と言っても過言ではありません。もし、接着剤が、折れた鍵の破片だけでなく、鍵穴内部のピンやシリンダー本体にまで付着してしまったら、どうなるでしょうか。鍵穴の内部で全てが固着してしまい、もはや専門家でも、破片を取り出すことは不可能になります。そうなると、残された道は、錠前全体を破壊して交換するしかなく、修理費用は数万円単位で跳ね上がってしまいます。次に、「針金や安全ピン、爪楊枝といった、細くて硬いもので、内部をほじくり出そうとする」行為も、非常に危険です。鍵穴の内部は、ミクロン単位で調整された、非常にデリケートな精密機械です。先の尖ったものを無闇に突っ込むと、内部のピンを曲げたり、傷つけたりしてしまいます。また、差し込んだものが、さらに奥で折れて、新たな異物として詰まってしまうという、二次災害を引き起こす可能性も高いです。そして、意外な落とし穴が、「残った鍵の破片を、さらに奥に押し込んでしまう」ことです。何とかしようといじくり回しているうちに、破片が、本来届かないはずのシリンダーの奥深くへと入り込んでしまうと、専門家が使う特殊な工具ですら、届かなくなってしまうことがあります。鍵が折れてしまったら、まずやるべきことは「何もしない」ことです。そして、その状態のまま、速やかに「プロの鍵屋さん」に連絡する。それが、被害を最小限に食い止め、最も安く、そして安全に問題を解決するための、唯一にして最善の行動なのです。