鍵穴の掃除をしても、スペアキーを使っても、鍵が全く回る気配がない。そんな八方塞がりの状況で考えられるのが、「鍵穴(シリンダー)内部の、経年劣化による物理的な故障」です。これは、もはや個人でのメンテナンスや対処では解決できない、専門家による修理または交換が必要な領域のトラブルです。鍵のシリンダーは、一見すると頑丈な金属の塊に見えますが、その内部は、多数の小さな「ピン」や「スプリング」といった、非常に精密な部品で構成されています。毎日、鍵が抜き差しされ、回転することで、これらの内部部品は少しずつ摩耗し、金属疲労を起こしていきます。特に、ピンを押し上げる役割を持つスプリングは、長年の使用で弾力性を失ったり、折れてしまったりすることがあります。スプリングが正常に機能しなければ、ピンが正しい位置に戻らず、鍵を回すことができなくなります。また、シリンダー内部の部品が、摩耗によって削れたり、破損したりして、その破片が内部で詰まってしまうこともあります。こうした内部の物理的な故障は、外から見ただけでは判断することができません。一般的に、玄関の鍵の耐用年数は、使用頻度や環境にもよりますが、「およそ10年から15年」と言われています。もし、お使いの鍵がこの年数を超えているのであれば、目に見えない部分で劣化が進行し、いつこのような突然の故障に見舞われてもおかしくない状態にある、と考えた方が良いでしょう。鍵が回らないという症状は、長年、私たちの安全を守り続けてくれたシリンダーが、ついに寿命を迎え、「もう限界だよ」と伝えている悲鳴なのかもしれません。この段階に至ったら、無理に自分で何とかしようとせず、速やかにプロの鍵屋に診断を依頼し、必要であれば新しいシリンダーへの交換を検討することが、最も賢明な選択となります。
経年劣化という見えない敵、シリンダー内部の故障