あれは肌寒い平日の夜でした。仕事の疲れを引きずりながら自宅アパートのドアの前に立ち、いつものようにカバンから鍵を取り出そうとした時、その存在がないことに気づきました。指先に触れるはずの冷たい金属の感触がないのです。最初は上着のポケットだろうと軽く考えていましたが、探せど探せど見つかりません。次第に心臓が早鐘を打ち始め、冷や汗が背中を伝いました。会社から駅までの道、電車の中、コンビニ、考えられる全ての場所を頭の中で再生しましたが、どこで落としたのか全く見当がつきませんでした。途方に暮れ、スマートフォンの明かりを頼りにアパートの廊下でうずくまっていた時、ふと「管理会社に連絡する」という選択肢を思い出しました。時刻はすでに午後十時を回っていましたが、藁にもすがる思いで契約書に書かれていた緊急連絡先に電話をかけました。事情を話すと、電話口の担当者は落ち着いた声で対応してくれ、提携している鍵屋をすぐに手配してくれるとのこと。その言葉にどれほど安堵したことか分かりません。約一時間後、到着した作業員の方が本人確認を済ませ、慣れた手つきで鍵の交換作業を始めました。古いシリンダーが取り外され、新しいピカピカの鍵が取り付けられる様子を、私はただ黙って見つめていました。全ての作業が終わり、新しい鍵と請求書を受け取った時、ようやく自分の部屋に入れるという安心感と、約三万円という手痛い出費に対する後悔が入り混じった複雑な気持ちになりました。この一件を通して私が学んだのは、トラブルが起きた時に一人で抱え込まず、然るべき場所に迅速に相談することの重要性です。そして、何よりも日頃から鍵の管理を徹底すること。今では鍵に大きなキーホルダーを付け、カバンの決まった内ポケットに必ず入れるようにしています。あの夜の不安感を、もう二度と味わいたくないからです。
私が賃貸の鍵を失くして学んだこと